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最高裁判所大法廷 昭和25年(あ)1848号 判決

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人等を免訴する。

理由

被告人両名の弁護人山本治雄の上告趣意第一点について。

本件につきわが国の裁判権を排除するべき事由はなんら認められないから、論旨は採りえない。

職権をもって調査するに、

裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎、同入江俊郎の意見は、昭和二一年勅令三一一号「連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令」は、平和条約発効と同時に当然失効し、その後に右勅令の効力を維持することは憲法上許されないから、本件は、原判決後に刑が廃止された場合にあたるとするものであること、昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡大法廷判決記載の右六裁判官の意見のとおりである。

裁判官栗山茂、同岩松三郎、同河村又介の意見は、次のとおりである。

昭和二一年勅令三一一号の内容をなす指令として本件に適用されているのは、昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官の「新聞規則」と題する覚書第一項、第二項であるが、同覚書中の右各項はその趣旨内容に徴し単なる新聞倫理の示唆にすぎないものと認めるべきであるから、本件について第一審判決の確定した事実に適用されるべきものは、右各項ではなく、同覚書第三項であると解しなければならない。しかるに、右第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評を行うこと」の禁止は、憲法二一条に違反するから、右勅令三一一号は同項をその内容とするかぎりにおいて平和条約発効と共に失効し、従って、結局本件は原判決後に刑が廃止されたときにあたるものといわなければならないことは、昭和二七年(あ)第二〇一一号同三〇年四月二七日言渡大法廷判決記載の栗山、岩松、河村各裁判官の意見のとおりである。

裁判官小林俊三の意見は次のとおりである。

原判決が是認する第一審判決は、本件被告人等について、判示のように「真実に符合せず且公安を害する惧れある事項」を印刷したとして、昭和二一年勅令三一一号違反に問うのであるが、右勅令の内容を充足する指令であり、且つ本件に適用ある昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官の「新聞規則」と題する覚書第一項、第二項の該当部分は、もっぱら当時の連合国または占領軍の便宜利益のために発せられたものと認められ、且つその表示がきわめて一般的抽象的であるから、これをもってわが国民に対し刑罰制裁を附して言論を制限することは、憲法二一条に違反するものと認めなければならない(なお昭和二七年(あ)第二〇一一号同三〇年四月二七日大法廷判決に述べた私の補足意見参照)。されば右指令を適用する限りにおいては、右勅令は、昭和二七年法律八一号及び同年法律一三七号にかかわらず平和条約発効と同時に国法たる効力を失うものと解するを相当とし、従って本件は原判決後の法令により計の廃止があった場合にあたるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するといわなければならない。よって原判決及び第一審判決を破棄し被告人を免訴すべきものである。

よって以上一〇裁判官の意見によれば、本件は原判決後に刑が廃止されたときにあたるものとして、刑訴四一一条五号、四一三条但書、三三七条二号により主文のとおり判決する。

裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見は、次のとおりである。

平和条約発効前に犯した昭和二一年勅令三一一号違反の罪に対する刑罰は、平和条約発効後といえども廃止されたものといえないことは、前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決記載の意見のとおりである。

なお、本件に対する各裁判官の補足意見は前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決に記載乃至引用したとおりである。

裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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